新聞の切抜きを整理していたら、だいぶ前に、毎日新聞の大阪版に載った小学生の作文が出てきた。シリーズで毎週1回掲載されるのだが、面白いのでいつも読んでいる。切抜きまですることは珍しいので、読み返してみたら、やはり面白かった。
小学2年生の作文で、タイトルは『すきな人』。
「すきな子の言い合いをしよう」ということで、友だち数人で順番に、隣りの子だけに聞こえるように耳元にささやく。
文章は次のように続いている。
「さいしょにぼくが、ぼくのすきな人の名まえを、ふくいくんの耳のそばで、小さいこえで言いました。
ふくいくんは、
「ふうん。」
とちょっとわらいました。
つぎにふくいくんが、ふくいくんのすきな人の名まえを、けいしくんの耳のそばで言いました。ちょっと聞こえました。ぼくと同じ人でした。つぎは、けいしくんが田ざきくんの耳のそばで言いました。また聞こえました。また同じ人でした。田ざきくんは田村くんの耳のそばで言いました。また同じでした。田村くんは、新田くんの耳のそばで言いました。また聞こえました。また同じでした。新田くんが、ぼくの耳のそばで言いました。また同じでした。」
じつに簡潔な文章で、そのときの状況が的確に書かれていて感心した。文章力もさることながら、小学2年生ですでにクラスにマドンナがいるらしいこと、みんながその子を好きだと思っていて、こっそりと言い合う恥じらいの様子などが、とても微笑ましくて懐かしかった。
ぼくがクラスのマドンナを初めて意識したのは、小学3年生だからこの2年生たちに負けたと思った。それに、その頃のぼくは作文が大の苦手だったのだ。
この2年生は、(ふしぎやなあ。なんでおんなじ人やろ)と「それからずっと考えていました」という。そして最後、「すきな人の名まえはひみつです」と、心憎い締めくくり方で作文を終る。
ああ、まいった。なんだか解らないが完敗した気分だ。もういちど小学生に戻ってわくわくしたい。好きな子の名前を、誰かにこっそり伝えたいと思った。
もうマドンナもいないけれど、おじんのぼくにも好きな人はいる。その人の名前も、誰かにしゃべりたいが秘密にもしておきたい。その気持はいまも変わらない。だからやっぱり、好きな人の名前は秘密です。